大切なものは

第 10 話


「断る。なぜ私が枢木と、一緒に暮らさなければならないんだ」

打ち合わせを終えたジュリアスもまた、同居の話を聞かされたらしい。
不愉快気に顔をゆがめ、唾棄するように言い捨てた。

「僕も君と暮らすなんて断りたいが、皇帝陛下のご命令だ」

スザクも心底いやそうに言った。
皇帝陛下の命令。
その言葉は絶対で、ジュリアスはぐっと言葉をのんだ。
皇帝を恨んでいたルルーシュは、今は完ぺきなまでに皇帝を心酔する臣下ジュリアスに作り変えられていた。すべては皇帝陛下のために。笑顔で言う彼の姿はあまりにも滑稽だった。きみは一生皇帝の、ブリタニアの傀儡として生きればいい。ジュリアスとして名声と確固たる地位を築き、いつか記憶を取り戻して絶望すればいい。
そんな道化の姿を、誰よりも間近で見れるのだから、同居生活を喜ぶべきだろうか。万が一、ルルーシュの記憶が戻った時、対処できるのも自分だけなのだから。

「それで、どうする?君が僕の部屋に?僕が君の部屋に?」
「チッ、陛下のご命令なら従うしかないか。ならば私の部屋だ。あそこは陛下の寝所にも近く、緊急時には対応もしやすい」

基本的に、ラウンズの屋敷は皇居の外にある。
スザク以外はみな貴族の出で、その手の屋敷には困らないし、各家の見栄もあるため、皇居のすぐ近くに無駄に大きな屋敷を構えているのが一般的だ。だが、スザクは貴族でもなければブリタニア人でもないナンバーズだから、皇居内にある空いている部屋の一つを間借りしていた。
皇居内とはいえ、それでもやはり皇帝の生活圏からは離れている。
スザクたちラウンズは、緊急時に皇居内を駆け回るぐらい造作もないが、体力のない上に病み上がりのジュリアスには無理だし、この部屋はスザクの部屋の何倍も広く、警備は皇帝の居住区並みに高い。これを手放すのも惜しかった。

「じゃあ決まりだ。すぐに荷物を持っていく」

これ以上話す事はないと、スザクは足早にその場を後にした。
スザクは私物が少ない。
ラウンズの制服とわずかな私服を詰め込めば、ほぼ終わりだ。
ロイドとセシルに部屋を移動することを伝えた後、荷物を持って今朝までいた部屋に入った。ビスマルクから預かったカギは、そのままスザクのものになったため、何の苦も無く室内に入る。
部屋の中には、まるでソファーに沈むかのように座っているジュリアスがいた。うつむいているため顔はわからないが、テーブルに置かれている空のペットボトルと、飲み終わった後の薬の梱包材が目に入った。どさりと荷物を床に置き、テーブルの上のごみを片付けると気配に気づいたのかジュリアスが顔をあげた。

「早かったな、枢木」
「荷物が少ないからね」
「・・・なんだ、それだけなのか?本当に少ないな」

段ボール1つにも満たない量に、ジュリアスは呆れたように言った。

「君に言われたくないよ」

クローゼットの中だってほぼ空なのだから、彼が荷物をまとめても、スザクとたいして変わらない。家具だって据え置きのものだし、記憶を失ってまだ1か月。私物なんてないだろう。

「だが困ったな、寝室は一つしかない。枢木、お前はソファーで休め」
「冗談だろ?一日二日ならともかく、これからずっとソファーなんて無理だよ。あれだけ大きなベッドなんだから、二人で寝ても余裕だろ?」
「お前、私と一緒に使う気か?」
「他に選択肢がないからね。嫌ならベッドと部屋を用意してくれないかな?」

無理だとわかっていながらスザクは言った。
この様子では、ジュリアスは用意されたこの居住区内を見て回っていない。寝室にできそうな部屋は、1室あるのだ。もし知っていても、ジュリアスは家具を増やさないだろう。なぜならこの部屋を用意したのは皇帝だ。心酔する皇帝陛下が部下を使ったとはいえ、自分のために用意してくれた家具や部屋をいじるなんて、今の彼にはできはしない。予想通りそんなことは不可能だと彼は言い放ち、しぶしぶ同じベッドを使うことを認めた。

「何ならきみは、ベッドの下で寝ればいい」
「そうだな、それも手だ」

怒るのではなく、ジュリアスは名案だと言った。

「万が一暗殺者が来ても狙われるのは枢木だ。お前は暗殺者に負けることはないだろう?ということは最高の護衛を手に入れたということじゃないか?」

そう考えればこの同居は最高の提案だった。陛下はきっとそのことも考えているのだろう。と、ジュリアスは解釈し、皇帝に感謝の意を示した。

「いや、あの、ベッドの下は冗談だからね?また体調崩すよ!?」

嫌味で言ったというのに全然通じず、スザクは焦った。

「なんだ、冗談だったのか?お前にしてはよく気が付いたと褒めていたのに」
「僕が窓側に寝れば、ベッドの上でも安全だよ。室内に誰か来たら目が覚めるし」
「ほう?便利だな、まあそれは後々考えよう」

後々?今夜のことだよね?とスザクはうめいた。
優先順位結構高いと思うんだけど放置なの?
ずれてる。
このルルーシュはずれている。
扱いにくい。
それだけは短い付き合いで理解できた。

「それで、ル・・・えと、ジュリアス。君は近々作戦に参加すると聞いたんだけど?」
「ああ、3日後にな」
「その体で遠征は無理だ」
片腕で体にも傷があるし熱だってある。

「それに関してはビスマルクにも言われたが問題はない。ああ、言い忘れていたが、今回の作戦お前も参加することになった」
「僕も?」
「皇帝陛下のご命令だ。お前はまだラウンズとしての経験が不足しているから連れて行けとな」

確かにその通りだ。
スザクはいまだ作戦に参加していなかった。

「私もお前も、ラウンズとしては新米だ。だから、せいぜい大先輩であるルキアーノとジノから、いろいろと教えてもらわなければな」

くすりと笑った表情は、とても教えてもらう側の顔ではなかった。何か企んでいることがそれだけでわかり、いったい何をするつもりだとスザクは憎々しげにらみつけた。

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